例会記録

2023年8月例会記録

中京大学文学部所蔵「名古屋東照宮祭礼図」ほか見学会(2023.8.28)於中京大学名古屋キャンパス

中京大学文学部が所蔵する「名古屋東照宮祭礼図」など、3点の祭礼関係未公開資料の見学会を開催し、資料について意見交換をおこなった。

井上善博氏(名古屋市蓬左文庫)、鬼頭秀明氏(本学非常勤講師)からの指摘・解説

1.名古屋東照宮祭礼図 巻子装3巻
・虫損も無く、資料の状態は非常に良い。
・画は稚拙だが、絵具の使い方が分かっている人物が描いたものか。金泥なども多く使われ、費用をかけたものである。貼紙に描かれた山車の絵の方がうまく、これは絵心がある別の人物によるものと思われる。
・東照宮祭礼に思い入れがある人物が作成したものか。
・山車と練り物(警固)の登場順がどの記録とも合わないのは、表装時に入れ替わったか、何らかの製作者の意図があったものか。
・内藤東甫『張州雑志』、徳川美術館蔵「名古屋東照宮祭礼図屏風」等と比較をし、詳細を分析したほうがよい。
・以下の点から、かなり古い時代の東照宮祭礼を描いた別本を写したものと思われる。
 ・七間町の橋弁慶車に前棚が無い。
 ・各山車の大幕に猩々緋を用いていない。
 ・上長者町の山車について、享保17年(1732)に廃された道成寺車が描かれている(貼紙で二福神車が描かれる)。
・絵画が左から始まっているのは、徳川美術館蔵「名古屋東照宮祭礼図屏風」と類似している。

2.那古野祭巻 巻子装1巻
・①9輌の山車、②各町の練り物(警固)、③各町の練り物 の3種の刷り物の後に、伊勢門水の書状をあわせて巻子装にしている。
・これらの刷り物は毎年祭りの際に売られたものである。
・①は、元は一枚摺。名古屋市博物館蔵「名古屋御祭礼絵図(一枚摺)」参照。色は退色したと思われる。一枚ものを上段・下段に切り分け、巻子装にしている。発行は本町九丁目の版元。(要分析)
・②のほうが③よりも古い。名古屋市博物館蔵「名古屋御祭礼絵本」参照。幕末の祭礼図と思われる。
・伊勢門水の書状の内容は、東照宮祭礼の古巻物を風呂先屏風に仕立ててはいかがか、というものである。寺西功一氏によれば、宛先の「高橋正彦」は、「高彦将軍」と呼ばれた実業家・高橋彦次郎の長男。文中の「万喜」は古美術・骨董商。

3.那古野東照宮祭礼行列図 折本1点
・上の2と同様に、毎年祭りの際に売られた刷り物を冊子としたものである。
・名古屋市博物館蔵「名古屋御祭礼絵本」参照。幕末の祭礼図と思われる。
・巻末の「大日本国郡全図」の広告は後付け。
・写真1点が挟み込まれている。寺西功一氏によれば、大須の富士浅間神社の本殿前で撮られたものと推定される。撮影時期は、国民服を着ている男性がいること、警察官がサーベルをもっていることから、戦中~戦後まもない頃と推定される。

(意見交換まとめ:中京大学文学部学芸員 杉浦綾子氏)

 以上3点の資料は、中京大学文学部が古書店から購入したものである。1については素人絵ながら、かなり古い時期の祭礼図を手本にしたものと思われ、資料的価値が高いとの評価を得た。2については伊勢門水の手紙が付属しており、来歴が気になる資料である。ご意見をいただいた井上善博氏、鬼頭秀明氏、寺西功一氏ほか、参加者の皆様に厚く御礼申し上げる。これらの資料は今後、紀要などで資料紹介を行いたいと考えている。(小早川)