「盗人送りに関する予備的考察―新潟県岩船郡関川村桂集落の事例を中心に―」畑 裕貴(2023.6.28)
盗人送りに関する予備的考察―新潟県岩船郡関川村桂集落の事例を中心に―」畑 裕貴 例会報告まとめ(PDFファイル)
【感想】
以前、勤務していた高校でのこと。担任したクラスの中で、財布から現金が抜き取られるという盗難事件が頻繁に起きた。「どうも犯人はあの子らしい」。生徒の中には噂も広まったが、きちんとした証拠があるわけでもないし、外部の者の仕業かもしれない。犯人探しをしてクラスの中が混乱するよりも、次の盗難を防ぐことの方が大切だと思い、盗難除けの寺として名高い、瀬戸市の雲興寺に行ってお札を受けてきた。教室の正面の高いところにお札を貼り、「このお札の前で盗みを働くと、血を吐いて死ぬんだ」と、いい加減なことを生徒に話した。すると、盗難はぴたりと止んだ。お札の力はすごかった。
今回の「盗人送り」の発表を聞いて、そんな昔のことを思い出した。日本のムラは、お上から独立して犯罪行為を検断する権限を持っていたが、ムラの中で盗難が起きた際、犯人探しでムラがごたごたすることを避けるため、人形に罪を負わせて追い出してしまうことで解決を試みたのである。共同体の和を守ることを優先した慣行とも言えるが、これは効果があったに違いない。
この習慣は、東日本に分布して西日本には見られないという。共同体のあり方が、日本の東西で異なっていることと関連するのかもしれず、興味深いテーマである。また、今回の発表の調査地である関川村桂では、「盗人送り」が年中行事化している。本来は臨時の慣行であったはずの「盗人送り」がいかなる理由で行事化していったのか、この点も気になるところである。今後の研究の発展に期待したい。
(文責 服部 誠)
コメント